
それではなぜ天下一品の閉店ラッシュが起こっているのでしょうか? 結論から言うと、一番の理由は、事実が大げさに取り上げられてしまう点にあります。
そもそもニュースで取り上げられやすいのは、タピオカ、唐揚げ、高級食パンなどの閉店ラッシュや、焼肉・ステーキのような定番ジャンルの廃業の話題。逆に開店ラッシュの話題はニュースになりません。
今回の天下一品の閉店を冷静に整理してみましょう。天下一品の公式サイトによると、6月2日時点では全209店舗を展開。このうち10店舗が閉店するとなると、約4.7%にあたる計算に。今年閉店ラッシュで話題になったドミノピザは、国内店舗の約2割にあたる172店舗を閉鎖しています。
増収増益が続くドミノの事例からもわかるように、閉店という経営判断は収益性向上を目的としているため、“閉店=人気に陰り”ということではないのです。
また大手ラーメンチェーンで店舗数を比較すると、一風堂は149店舗(国内)、一蘭は81店舗(国内)。天下一品は2倍以上の店舗数であり、依然として業界でも有数の店舗数を誇っています。最適化の結果として一部の店舗は整理された可能性がありますが、ブランドとしての存在感は健在です。
ちなみに、一風堂ののれん分け制度、一蘭の全店直営と比較して、天下一品はフランチャイズに言及した考察は十分ではありません。フランチャイズが主体のモスバーガーやドトールの好調ぶりをみれば、原因は根源的なところにあると考えられます。
940円のラーメンを明日も食べられる人は、どれほどいるか

ラーメンどんぶりには、「明日もお待ちしてます。」というメッセージが。明日も食べたいけれど……
そんなことを考えていた時に、ラーメンどんぶりに書かれているメッセージ「明日もお待ちしています。」を見て、店舗減のもうひとつの理由が思い浮かびました。それは、手取りが上がらず、物価高が続く社会環境において、940円のラーメンを明日も食べられる人はどれほどいるか?ということ。
食べたくても、お金が続かない可能性があるのです。天一のこってりラーメンに使われる鶏ガラの量は、1日あたり16トン。日清のチルド麺商品の希望小売価格650円であることからも、安価に作ることができるスープではないことが分かります。つまり天一のラーメンは、食べたくても頻繁に食べることができない至高のスープを守り続けているのです。
しかしながらこの価格は、1杯2000~3000円が当たり前の海外観光客からすれば安く感じられるわけですから、日本人の賃金上昇は、備蓄米で注目されているコメ問題と同じくらい切実です。
今後、本当においしいラーメン店がやむなく閉店に追い込まれないことを、切に願いたいところです。
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>